学習のポイント:

  • コサイン類似度は、2つのものがどれくらい“似ているか”を測る方法で、主に文章や画像を数値化したベクトルの角度を使って計算します。
  • この手法は検索エンジンやAIによる文章生成、チャットボットなどに活用されており、情報の関連性を判断するうえで重要な役割を担っています。
  • ただし、意味が近くても異なる単語が使われている場合には正しく機能しないことがあり、高次元ベクトルの扱いには注意が必要です。

「似ている」を数字で測る?コサイン類似度とは

「この言葉、聞いたことはあるけれど、実はよく知らない」。そんな用語のひとつに、「コサイン類似度(Cosine Similarity)」があります。名前からして少し数学っぽく感じられるかもしれませんが、実は私たちの日常にもひっそりと関わっている考え方です。

たとえば、検索エンジンが「これがあなたの探している情報では?」と候補を出してくれるとき。その裏側では、このコサイン類似度という仕組みが使われていることがあります。

矢印で考える、AIの“似ている”の見つけ方

では、この「コサイン類似度」とは具体的に何をしているのでしょうか。簡単に言えば、「2つのものがどれくらい似ているか」を数字で測る方法です。ただしここでいう「似ている」は、見た目や意味そのものではなく、それらを数値化した“方向”の近さによって判断します。

少しイメージしやすくするために、「矢印」を思い浮かべてみてください。文章や画像などのデータは、コンピュータにとって扱いやすいように「ベクトル」と呼ばれる数値の集まりとして表現されます。このベクトルは矢印のようなもので、それぞれ方向と長さを持っています。

2本の矢印(ベクトル)がほぼ同じ方向を向いていれば、それらは「よく似ている」と判断されます。逆に、大きく違う方向なら「似ていない」と見なされます。このとき注目するのは“角度”だけなので、矢印(つまり文章)の長さにはあまり影響されません。短い文でも長い文でも、公平に比較できるという点が、この手法の大きな特長です。

検索やチャットボットにも活躍。でも課題も

この考え方は、検索エンジンだけでなく、AIによる文章生成やチャットボットなどにも広く使われています。たとえば、「おすすめの記事」や「関連する質問」が表示される場面。その背後では、それぞれの文章をベクトルに変換し、お互いの方向(=内容)を比べて、「これは近い内容だ」と判断しているわけです。

最近では、大規模言語モデル(LLM)やベクトル検索技術との組み合わせも一般的になっています。こうした場面では、「Embedding(エンベディング)」という技術で文章をベクトル化し、そのあとでコサイン類似度によって距離感=内容の近さを測る流れがよく使われています。

ただし、この方法にも弱点があります。たとえば、「意味はほぼ同じなのに、まったく違う単語で書かれている」ような場合には、本来は近い内容でも「違うもの」と判断されてしまうことがあります。また、多くの数字(高次元)で表されたベクトルになると、人間には直感的に理解しづらくなるため、その解釈には注意も必要です。

“方向を見る”という発想が支えるAI技術

それでもなお、このコサイン類似度という考え方は、多くのAI技術や情報検索システムにおいて欠かせない存在となっています。「方向を見る」というシンプルな発想が、大量のデータから“意味の近さ”を見つけ出す手助けになっているという事実には、小さな驚きがあります。

私たちが日々受け取っている情報。その裏側では、このような数学的な工夫が静かに働いています。コサイン類似度も、その一端を担っている大切な仕組みなのです。

次回は、AIの計算処理を支える縁の下の力持ち、「GPU」についてご紹介します。画像処理が得意と言われる理由とは? その秘密をわかりやすく解き明かしていきます。

用語解説

コサイン類似度:2つのものがどれくらい似ているかを測る方法で、とくに文章や画像などを数値化した際、その“方向”がどれだけ近いかを見ることで判断します。

ベクトル:物事を数値で表したもので、矢印のように方向と大きさがあります。コンピュータが文章や画像など複雑な情報を扱いやすくするためによく使われます。

Embedding:言葉や文章など人間向けの情報を、コンピュータ向けに数値(ベクトル)の形へ変換する技術です。AIが意味や関連性を理解するためには欠かせません。