prefill-decode

この記事のポイント:

  • プレフィル(入力処理)とデコード(出力処理)を物理的に分離し、会話中の応答の途切れや不安定さを減らす
  • 分離によりプレフィル負荷を専門化して途切れを減らせるが、KVキャッシュ転送で初回応答までの時間がやや増える
  • 研究段階から実運用へ移行し、応答高速化により利用行動や問いかけ方の変化を促す可能性がある
おはようございます、ハルです。今日は2025年8月22日、ちょうど「チンチン電車の日」とされていて、明治時代に日本で初めて路面電車が走った日なんだそうです。街の移動を便利にした小さな車両の登場が暮らしを変えたように、今はAIの技術が私たちの日常を少しずつ形作っていますね。そんな流れを感じながら、今日はPerplexity AIが発表した新しい仕組みについてご紹介していきたいと思います。
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PrefillとDecodeと大規模言語モデルの概要

AIの世界では、毎週のように新しい発表が飛び込んできます。そのたびに「また何かすごいことが始まったらしい」と感じつつも、正直なところ仕組みまで理解するのは大変ですよね。今回取り上げたいのは、Perplexity AIが公開した「Disaggregated Prefill and Decode(プレフィルとデコードの分離)」という技術です。名前だけ聞くと専門的で身構えてしまいますが、要は大規模言語モデル(LLM)が文章を生成するときの“段取り”を効率化する工夫だと思っていただければ十分です。これによって、AIが返答を作るスピードや安定性が改善される可能性があります。私たち利用者にとっては「待ち時間が減る」「応答が途切れにくくなる」といった形で実感できる進歩なのです。

プレフィルとデコードの工程とパフォーマンス

そもそもAIが文章を生成するときには、大きく二つの工程があります。最初に入力文を読み込み、その情報を内部メモリに整理して格納する段階が「プレフィル」。その後、一文字ずつ(正確には一トークンずつ)出力していく段階が「デコード」です。この二つは性質が違います。プレフィルは大量の情報を一気に処理するため計算負荷が重く、時間もかかります。一方でデコードは軽快ですが、リアルタイム性が求められるため遅延には敏感です。従来は同じ機械で両方を同時に処理していたため、重たいプレフィル作業が走るとデコード側のレスポンスまで遅れてしまう、というジレンマがありました。

プレフィル専用・デコード専用のモデル配置

そこでPerplexity AIは、この二つを物理的に分けてしまう方法を採用しました。つまり「プレフィル専用マシン」と「デコード専用マシン」を用意し、それぞれ得意な作業だけに集中させるわけです。こうすることでプレフィル側は大量処理を効率よくこなし、デコード側は安定した速度で返答を続けられるようになります。ただし万能ではなく、新たな課題もあります。例えばプレフィルで作った内部メモリ(KVキャッシュと呼ばれるもの)をネットワーク経由でデコード側へ送る必要があるため、その転送時間分だけ最初の応答までの待ち時間(Time to First Token)が少し長くなるのです。それでも全体としてみれば、会話中の“もたつき”や“途切れ”を減らせるメリットの方が大きいとされています。

大規模化するモデルとAIインフラ課題

このアプローチは突然生まれたものではありません。背景にはここ数年続いている「より大規模なモデル」「より長い入力文」を扱う流れがあります。モデルが巨大化すればするほど、プレフィル処理にかかる負担は増します。その結果、「最初の一言」を出すまでに数秒以上待たされるケースも珍しくなくなりました。また企業利用では同時アクセス数も膨大になるため、一人ひとりへの応答速度をどう保つかが大きな課題になっています。今回の分離手法は、その解決策として現場レベルで試行錯誤されてきたものです。そして今や研究段階から実運用へと移りつつある点に意味があります。「AIとの会話体験」をより自然なものへ近づける基盤整備、と言えるでしょう。

AIの応答がもっと自然にとユーザー体験

もちろん、この仕組み自体はユーザーから見えません。「あれ?今日は少し速いな」と感じても、その裏では複数台のサーバー同士がせっせと役割分担しているわけです。この目立たない改良こそ、技術進化の日常風景なのかもしれません。そして私たち利用者として考えたいのは、「スピードアップしたAIとどう付き合うか」という点です。応答時間が短縮されれば、それだけ多く質問でき、多く考えられる余地も広がります。しかし同時に、“考える前に聞いてしまう”便利さとの距離感も問われていくでしょう。

AIの応答改善と私たちの問いかけ

今回紹介したニュースは、一見するとエンジニア向けの細かな話題ですが、その先には私たちの日常的なAI体験があります。「待ち時間ゼロで相談できる存在」が当たり前になったとき、人間側はどんな問いを投げかけるのでしょうか。その未来図を想像しながら、この静かな技術革新を眺めてみても面白いと思います。

今日ご紹介した技術は表には見えにくい工夫ですが、こうした積み重ねが私たちの体験を少しずつ心地よいものへと変えていきますね、どうぞこれからも日々の中でふと感じる小さな変化を楽しみながら、新しいAIとの付き合い方を一緒に探していければと思います。

用語解説

プレフィル(Prefill):AIが最初に入力文を一気に読み込んで「要点を整理」する段階。大量の情報を計算して内部にためるため、処理が重く時間がかかりやすいです。

デコード(Decode):整理された情報をもとに、実際に文章を一文字ずつ(正確にはトークン単位で)出力していく段階。リアルタイム性が求められるため、遅れに敏感です。

KVキャッシュ:プレフィルで作った「過去の情報の短期メモリ」のようなもの。デコードで続きを作るときに必要な情報を素早く取り出せるよう保存しておく仕組みで、転送や共有が性能に影響します。