AdobeがAWSの生成AIを活用して開発者向けサポートを強化し、情報検索の精度を20%向上させた取り組みについて解説します。

Adobeの開発者向けサポート強化の背景

社内で使うマニュアルや技術資料、皆さんの職場にもたくさんあるのではないでしょうか。特にIT系の企業では、開発者が過去のトラブル対応や設定手順を調べるために、膨大な情報を検索することが日常茶飯事です。しかし、情報があちこちに散らばっていたり、検索しても欲しい答えがすぐに見つからなかったりと、時間と労力がかかることも少なくありません。そんな中、世界的なクリエイティブソフトウェア企業であるAdobe（アドビ）が、自社の開発者向けサポート体制を一新する取り組みを進めています。その鍵となったのが、Amazon Web Services（AWS）の生成AI技術を活用した「Amazon Bedrock Knowledge Bases」です。

Unified Supportプロジェクトの概要

今回Adobeが導入した新しい仕組みは、「Unified Support（ユニファイド・サポート）」という社内プロジェクトの一環として開発されました。目的は明確で、数千人規模の社内開発者が必要な情報にすばやくアクセスできるようにすることです。これまで社内には無数のWikiページや技術ガイド、トラブルシューティング資料などが存在していましたが、それらを横断的に検索し、有用な情報だけを抽出するには限界がありました。

AIベースのシステム構築とその効果

そこでAdobeはAWSと連携し、大量の文書データを効率よく処理・検索できるAIベースのシステムを構築しました。このシステムではまず、文書データを細かい単位（チャンク）に分割し、それぞれの意味内容を数値化してベクトルデータとして保存します。これによって、人間の言葉で入力された質問と意味的に近い情報をAIが自動で探し出せるようになります。また、「メタデータフィルタリング」という機能も加わり、「どの部署向けか」「いつ作成されたものか」といった条件で絞り込みながら検索できるようになりました。

情報検索精度向上によるメリット

この取り組みにより、情報検索の精度は従来比で約20%向上したとのことです。たとえば、新しいAWSリージョンでCI/CDパイプライン（ソフトウェア開発時の自動化工程）を構築する際にも、その手順や注意点などAdobe独自のナレッジにすぐアクセスできるようになりました。結果として、開発者が問題解決までに費やす時間やサポートコストも削減されているそうです。

長年の取り組みとの関連性

こうした試みは突然始まったわけではなく、実はここ数年の流れとつながっています。Adobeは以前から社内インフラやクラウド環境への移行を進めており、その中で「開発者体験（Developer Experience）」を重視する姿勢を強めてきました。2020年にはインフラ関連サポート用チャットボットも導入しており、その延長線上に今回の統合型サポートシステムがあります。また近年では生成AIへの関心も高まりつつあり、自社サービスへの応用だけでなく、自社業務そのものにもAI技術を積極的に取り入れている様子がうかがえます。

他企業への示唆と今後の展望

今回の事例は、一見すると大企業ならではの話にも思えるかもしれません。しかし、「必要な情報にたどり着けない」「過去資料が埋もれてしまう」といった課題は、多くの職場でも共通しているものです。Adobeの場合、それらをAI技術によって整理・再活用することで、生産性向上につなげたという点に注目できます。

まとめ：人間中心設計への視点

まとめとして、この取り組みは単なる技術導入ではなく、「人が働きやすくなるためにはどうすればいいか」という視点から設計されたものだと言えるでしょう。生成AIというと難しく聞こえるかもしれませんが、本質的には「知っている人しか知らない」状態だった知識を、誰でも使える形に変えていくための道具でもあります。今後こうした仕組みは、大企業だけでなく、中小規模でも応用されていく可能性がありますね。