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この記事のポイント:

  • Maestroは複雑業務を分解し複数案を比較して進行管理する指揮者型AI
  • 各工程に検証を挟み「どこで何が起きたか」を可視化して信頼性を高める
  • 高度判断は人間が担い、委譲範囲を設計して使い方をコントロールする必要がある
おはようございます、ハルです。今日は2025年9月5日、語呂合わせで「クリーンコーディングの日」とも呼ばれているそうです。コードをきれいに整えることは、未来の開発やAI活用にもつながる大切な姿勢ですよね。そんな日にふさわしく、パリで開かれたRAISE Summit 2025では、AIが複雑な仕事をどう整理し、どう指揮していくのかという新しい提案が示されました。
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RAISE SummitとAIが仕事を指揮

パリで開かれたRAISE Summit 2025で、イスラエル発のAI企業AI21 Labsが新しい方向性を示しました。共同創業者でありCEOのオリ・ゴシェン氏が壇上で語ったテーマは「AI all the work」。直訳すれば「AIがすべての仕事を担う」ですが、もちろん単なるキャッチコピーではありません。人間の仕事を一気に置き換えるという話ではなく、「複雑なタスクをAIにどう任せるか」という現実的な課題に正面から向き合った提案でした。会場には世界中から研究者や企業関係者が集まり、その空気はどこか“未来の働き方”を先取りするような熱気に包まれていたといいます。

Maestroと次世代エージェントの課題

ゴシェン氏が強調したのは、仕事とは単発の作業ではなく、複数のステップが積み重なって成り立つものだという点です。たとえばレポートを書くことを考えてみましょう。情報収集から構成づくり、文章化、推敲まで、小さな工程が連続して初めて完成します。大規模言語モデル(LLM)は一つひとつのステップなら高い精度でこなせるものの、それらを連鎖させると誤差が積み重なり、結果として信頼性が揺らぐことがあります。これが企業利用における最大の壁でした。

MaestroとAIが仕事を指揮する仕組み

そこで登場したのが同社の新システム「Maestro」です。その名の通り“指揮者”として振る舞い、AIに複雑な作業を任せる際に全体像を設計し、最適な手順を選び取りながら進行管理まで行います。特徴的なのは、一度決めた計画をそのまま押し付けるのではなく、複数案を生成して比較検討し、その中から最も効率的で確実な流れを選ぶ点です。

Maestroと次世代エージェントの透明性

また各ステップごとに検証プロセスを挟むため、「どこで何が起きたか」が可視化されます。これは単なるブラックボックス的な出力ではなく、後から人間が確認できる“報告書”付きの成果物として返ってくるイメージです。もちろん万能薬ではありません。高度に専門的な判断や、人間ならではの価値観に基づく決断は依然として人間側に残ります。しかし予算や要件に応じて柔軟に制御できる仕組みは、多くの企業にとって導入ハードルを下げるものになるでしょう。「使えるけれど信用できない」という従来型AIへの不安感を和らげる意味でも、この透明性は大きな武器になりそうです。

生成AIと次世代エージェントMaestro

今回の発表は突然降って湧いたものではなく、この数年続いてきた流れの延長線上にあります。生成AIブーム以降、多くの人々が「プロンプトさえ工夫すれば何でもできる」と期待しました。しかし現実には、長い手順や複雑な条件が絡む業務ほど、プロンプトだけでは限界が見えてきました。そのギャップを埋めようと、自動化フレームワークやエージェント型システムへの注目が高まっています。Maestroはまさにその文脈で登場した存在であり、“次世代エージェント”という言葉を具体的な形に落とし込んだ試みと言えるでしょう。

多段階処理型AIと次世代エージェントMaestro

私たちの日常にも、この動きは少しずつ影響していくはずです。メール返信や資料作成など、一見地味だけれど時間を奪う作業群こそ、多段階処理型AIとの相性が良い領域です。ただし「全部任せてしまえば楽になる」というよりも、「どこまで任せてよいか」「どこから自分で判断すべきか」を考える姿勢が欠かせません。テクノロジーとの距離感をどう保つか――それ自体もまた、新しい時代のスキルなのだと思います。

AIが仕事を“指揮”する時代と人間の役割

今回のニュースから浮かび上がる問いはシンプルです。もしAIが仕事全体を“指揮”できるようになったら、人間は何に集中すべきなのか。答えはまだ定まっていません。ただ一つ確かなことは、私たち自身もまた、自分というオーケストラの指揮者であるということです。そしてそのバトンをどう振るうかによって、未来の働き方は静かにも、大胆にも変わっていくのでしょう。

今日ご紹介したAI21 Labsの新しい挑戦は、私たちがこれからどんなふうにAIと役割を分け合いながら働いていくのかを静かに問いかけているように思いますね。すべてを任せるのではなく、どこまでを委ね、どこからを自分で担うのか、その線引きは人それぞれ違っていいはずです。大切なのは「便利だから使う」だけでなく、自分なりの納得感を持ってAIと向き合えることなのかもしれません。そんな視点を胸に、また次のニュースも一緒に考えていけたら嬉しいです。

用語解説

大規模言語モデル(LLM):大量の文章データを学習して、文章を作ったり要約したりするAIのこと。人間らしい応答が得られる反面、間違いや根拠のない答えを出すこともあるため注意が必要です。

エージェント型システム(エージェント):複数の処理を組み合わせて自律的に仕事を進める仕組み。指示を分解して手順を決め、実行や検証まで行う「作業の指揮者」のような存在です。

プロンプト:AIに投げる指示文や質問のこと。書き方次第で結果が大きく変わるため、何をどう伝えるかが重要になります。