この記事のポイント:

  • DeepSeek-R1モデルを企業向けにカスタマイズするためのファインチューニング手法を紹介しています。
  • AWSのSageMaker HyperPodを利用することで、大規模モデルの効率的な学習環境が整えられます。
  • 実際のビジネスユースケースに基づいたアプローチで、特定業務への最適化やセキュリティ対策も考慮されています。
おはようございます、ハルです。今日は2025年5月17日、金曜日。1956年のこの日、日本で初めて「お好み焼きソース」が発売されたそうですよ。ちょっと意外な記念日ですが、身近なものにも歴史があるんですね。さて、今日もAIの世界では新しい動きがありました。生成AIの進化が止まらない中、企業が自社に合わせて巨大な言語モデルを活用する取り組みが注目を集めています。今朝は、その最新事例をご紹介します。
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生成AIの進化とDeepSeek-R1

生成AIの進化が止まりません。中でも、近年注目を集めているのが、超巨大な言語モデルを企業ごとにカスタマイズして使うというアプローチです。とはいえ、「そんな大きなモデル、本当に自社で扱えるの?」と疑問に思う方も多いかもしれません。今回ご紹介するのは、そんな不安を解消するための最新事例です。世界的なクラウドサービスであるAWS(Amazon Web Services)が、DeepSeek AIが開発した大規模言語モデル「DeepSeek-R1(6710億パラメータ)」を、企業向けに柔軟にカスタマイズできる仕組みを公開しました。この記事では、その仕組みや背景について、わかりやすくお伝えします。

DeepSeek-R1の特徴と限界

DeepSeek-R1は、Mixture of Experts(MoE)という構造を採用した超大型のAIモデルで、学習データとして14.8兆トークンという膨大な情報を取り込んでいます。このモデルは少ない例示だけで新しいタスクに対応できる「few-shot」や「zero-shot」といった能力にも優れており、多様な業界での応用が期待されています。しかしながら、そのまま使うだけでは特定業務への最適化には限界があります。たとえば金融機関なら独自の財務データ、医療機関なら患者記録など、自社固有の情報を活かすには「ファインチューニング(追加学習)」が必要です。

SageMaker HyperPodによる効率的な学習

そこで登場するのが、AWSが提供するSageMaker HyperPodという仕組みです。これは、大規模なAIモデルを効率よく学習させるために設計された分散トレーニング環境で、「レシピ」と呼ばれる設定テンプレートを使って簡単に最適な学習条件を整えることができます。実際にこの仕組みを使えば、DeepSeek-R1のような巨大モデルでも、自社用途に合わせたチューニングが可能になります。

ファインチューニング方法の選択肢

ファインチューニングには2つの方法があります。一つはSageMakerトレーニングジョブという完全マネージド型のサービスで、インフラ管理などはAWS側に任せてしまえる点が魅力です。もう一つはHyperPodクラスター上で動作するSlurmというジョブ管理システムを使った方法で、より細かな制御やカスタマイズが可能になります。どちらも、それぞれのニーズや技術力に応じて選べる柔軟性があります。

具体的なファインチューニング手法

具体的にはまず、DeepSeek-R1の初期状態ではFP8という形式で重みデータが保存されているため、それをBF16形式へ変換する必要があります。この変換によって汎化性能(さまざまな状況への対応力)が高まり、安定した学習につながります。その後、「QLoRA」という手法を使って低精度・低メモリでも効率よくファインチューニングできるようになります。このQLoRAは、大きなモデルでも比較的少ない計算資源で学習できるよう工夫された技術です。

ビジネスユースケースへの応用

さらに注目すべきは、この取り組みが単なる技術デモではなく、実際のビジネスユースケースに即して設計されている点です。たとえば医療分野では臨床推論データセットを用いて専門知識ベースの回答能力を高めたり、多言語対応としてヒンディー語など特定言語への適応も可能になります。またセキュリティ面でも、自社ポリシーに合わせたガードレール(安全対策)の更新や拡張も行えるため、大規模AI導入時によくある懸念にも対応しています。

AWSとDeepSeek AIの協業

今回紹介された内容は、この数年続いてきたAWSとDeepSeek AIによる協業の延長線上にあります。2023年にはDistilled版(軽量版)DeepSeek-R1モデルへのファインチューニング手法も公開されており、それらと比べても今回はより本格的・大規模な取り組みと言えるでしょう。一貫して「現実的な運用」を意識した構成になっており、大規模モデルだからこそ生じる課題──例えばコストやメモリ制約──にも具体的な解決策が提示されています。

まとめ:AI活用への道筋

まとめとして、この取り組みは「誰もが巨大AIモデルを扱える時代」に向けた一歩だと言えます。もちろん、高性能GPUや高度な設定作業など一定の準備は必要ですが、それでも以前と比べれば格段に敷居は下がっています。そして何より重要なのは、「自社独自」の価値あるデータを活かしながらAI活用できる道筋が見えてきたことです。

今後もこうした取り組みが進むことで、日本企業にもより多くの選択肢と可能性が広がっていくことでしょう。

今日も、AIの進化が着実に現実を変えていく様子をお届けしました。難しそうに見える技術の裏側にも、誰かの工夫や想いがあるんですね。それでは、また次回の放送でお会いしましょう。どうぞ穏やかな一日をお過ごしください。

用語解説

Mixture of Experts(MoE):複数の専門家モデルを組み合わせて、特定のタスクに応じた最適な出力を生成する仕組みです。これにより、効率的に学習し、性能を向上させることができます。

ファインチューニング:既存のモデルを特定のデータやタスクに合わせて再学習させるプロセスです。これにより、モデルは新しい情報に適応し、より良い結果を出すことができます。

QLoRA:大規模なAIモデルを少ない計算資源で効率よく学習させるための手法です。低精度の重みを使用してメモリ使用量を削減しながら、モデルの性能を維持します。