学習のポイント:

  • AIは「ハルシネーション」と呼ばれる現象により、事実ではない情報を生成することがあるため、注意が必要である。
  • AIは過去のデータからパターンを学ぶため、正確性に欠ける場合があり、自分自身で情報を確認する姿勢が重要である。
  • AIとの関わり方を見直し、情報の真偽を問い直す習慣を持つことが、新しい時代に求められるリテラシーとなる。
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AIのハルシネーションとは?

「AIって、なんでも知ってるんでしょ?」
そんなふうに思ったことはありませんか。たしかに、質問を投げかければすぐに答えてくれるし、文章も画像も作れてしまう。まるで“万能の知恵袋”のように見えるAIですが、実はその答えが、まったくのウソだった…ということもあるのです。

それが「ハルシネーション」と呼ばれる現象です。少し聞き慣れない言葉かもしれませんが、最近ではAIを使ううえでとても重要なキーワードとして注目されています。私たちがAIと関わる機会が増える中で、この“ウソ”との付き合い方を知っておくことは、とても大切になってきています。

では、なぜAIはそんな“もっともらしいウソ”をついてしまうのでしょうか?

ハルシネーションの正体とは

「ハルシネーション(hallucination)」とは、本来は幻覚という意味の英語です。医療や心理学の分野では、実際には存在しないものを見たり聞いたりする状態を指します。それがAIの世界では、「事実ではない情報を、それらしく生成してしまう」現象として使われています。

たとえば、「有名な科学者アインシュタインの名言を教えて」とAIに尋ねたとします。すると、それっぽい名言が返ってくる。でもよく調べてみると、その言葉はどこにも記録されておらず、本人が言った証拠もない。つまり、AIが“それっぽく”作り出してしまったものだった――これが典型的なハルシネーションです。

このような誤情報は、一見すると本物に見えるため、とても厄介です。特にニュース記事やビジネス文書など、正確さが求められる場面では、大きな誤解やトラブルにつながる可能性があります。

AIの仕組みとその落とし穴

では、どうしてAIはそんな間違いをするのでしょうか。その理由は、AIの“学び方”にあります。

現在広く使われている生成系AI(たとえばChatGPTなど)は、大量の文章データからパターンを学び、「次に来そうな言葉」を予測することで文章を作っています。つまり、“意味”よりも“確率”で動いていると言えるでしょう。

人間なら、「これは本当にあった出来事かな?」と考えながら話すことができます。でもAIには「事実かどうか」を判断する力はありません。ただ過去のデータから似たような形を探し出して、それっぽい答えを組み立てているだけなのです。

このため、ときには実在しない人物名や企業名、ありもしない統計データまで登場してしまいます。それでも文として自然なので、人間側が気づきにくい――これこそがハルシネーションの怖さです。

情報確認の重要性

もちろん、すべてのAI出力が間違っているわけではありません。むしろ多くの場合、とても役立つ情報やヒントを与えてくれます。ただし、それを鵜呑みにせず、自分自身で「これは本当かな?」と立ち止まってみる視点が必要になります。

特に重要なのは、“ファクトチェック”という考え方です。これは、「その情報の裏付けとなる根拠や出典を確認する」という行為です。ネット検索で調べ直したり、公的な資料や信頼できるサイトで照らし合わせたりすることで、不正確な情報から身を守ることができます。

また、「これはAIによる仮説なのか、それとも事実として断定されているものなのか」といったニュアンスにも注意したいところです。曖昧な表現や断定口調には敏感になり、自分自身で判断する力を少しずつ養っていくこと。それこそが、この時代に求められる新しいリテラシーと言えるでしょう。

AIとの向き合い方について

この記事を読んで、「思ったよりもAIって不完全なんだな」と感じた方もいるかもしれません。でも、それ自体は悪いことではありません。人間だって完璧ではないように、AIにも得意・不得意があります。そしてその限界を知った上で上手につきあえば、とても心強いパートナーになってくれる存在でもあります。

私たちは今、“知識へのアクセス”という点ではこれまでになかった自由さと速さを手に入れました。しかし同時に、その情報が正しいかどうか、自分自身で見極める責任も背負うようになっています。

ハルシネーションという現象は、その責任について静かに問いかけてきます。「この情報、本当に信じていい?」――そう問い直す習慣こそが、これからの時代には欠かせないものになるでしょう。

そして何より大切なのは、「わからない」と感じたとき、自分から調べたり、人に聞いたりできる柔軟さ。その積み重ねこそが、本当の意味で“賢くなる”ということなのかもしれませんね。

用語解説

ハルシネーション:本来は幻覚を意味する言葉で、AIの世界では「事実ではない情報を、それらしく生成してしまう現象」を指します。つまり、AIが正しそうに見えるウソを作り出すことです。

ファクトチェック:情報の正確さを確認するために、その裏付けとなる根拠や出典を調べる行為のことです。信頼できる情報源と照らし合わせて、誤った情報から身を守ります。

生成系AI:大量のデータからパターンを学び、新しい文章や画像を作り出すAIの一種です。例えば、ChatGPTなどがこのカテゴリに入ります。