学習のポイント:

  • Embeddingは、言葉や画像をコンピュータが扱える数値に変換し、意味や特徴が似ているもの同士を近くに配置する技術です。
  • このしくみは、検索エンジンやおすすめ機能など、私たちの身近なAIサービスで活用されています。
  • ただしEmbeddingには限界もあり、人間の感覚や文化的な背景までは完全に再現できないことがあります。

言葉の意味をどうやって理解しているの?

「AIはどうやって言葉の意味を理解しているんだろう?」
そんな疑問を持ったことがある方もいるかもしれません。たとえば、検索エンジンに「おすすめのカフェ」と入力したとき、「近くの人気コーヒー店」が表示されることがありますよね。人間なら、「カフェ」と「コーヒー店」が似た意味だと自然にわかります。でも、コンピュータにとっては、それぞれがただの文字列にすぎません。そこに“意味”を見出すには、特別な工夫が必要です。

その鍵となる技術のひとつが、「Embedding(エンベディング)」です。

Embeddingってどんなしくみ?

Embeddingとは、文章や画像などの情報を、コンピュータが理解しやすい数値に変換する方法です。ただし、単なる数字ではありません。意味や特徴が似ているもの同士が、数値上でも近い位置になるように設計された“多次元空間”という場所で表現されます。

たとえば、「猫」と「犬」はどちらも動物なので、この空間では近くに位置します。一方で、「猫」と「自動車」のように全く異なるものは、遠く離れた場所になります。

この考え方は、人間の感覚にも少し似ています。知らない街を歩いていて、「駅前」「カフェ」「書店」などが集まっているエリアを見ると、「ここは賑やかな中心地だな」と感じることがありますよね。Embeddingも同じように、“意味”や“雰囲気”を数値として表現し、それらの関係性を距離として捉えているのです。

私たちの日常で使われているEmbedding

この技術は、私たちの日常生活でも広く使われています。たとえばネットショッピングで、「この商品を買った人はこんな商品も見ています」と表示されるレコメンド機能。その裏側では、商品同士の“似ている度合い”がEmbeddingによって計算されています。

また、大規模な言語モデル(LLM)では、文章全体をEmbedding化することで検索精度を高めたり、新しい知識とのつながりを見つけたりしています。「ベクトル検索」や「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という手法にも、このEmbeddingが欠かせません。

ただし、この技術にも限界があります。Embeddingは過去のデータからパターンを学ぶため、人間なら簡単に気づける微妙なニュアンスや文化的な背景までは正確に捉えきれないことがあります。また、多次元空間で表現されるため、その中身を人間が直感的に理解するのは難しく、「どうしてこの結果になったのか」がわかりづらいという課題もあります。

言葉の世界を描く“地図”として

それでも、この技術のおかげでAIは少しずつ、人間の言葉や意図に寄り添えるようになってきました。「言葉」をただ並べられた記号としてではなく、“意味あるもの”として扱おうとする試み。その第一歩こそがEmbeddingなのです。

普段何気なく使っているスマホの検索機能やチャットボット。その背後では、小さな数値たちが静かに働いています。そしてその数値こそが、“言葉の地図”とも呼べるEmbeddingなのだと思うと、不思議と親しみが湧いてきますね。

次回は、このEmbeddingによって作られた“地図”をどう活用して情報を探すか——つまり「ベクトル検索」についてご紹介します。興味があれば、ぜひ続きを読んでみてください。

用語解説

Embedding(エンベディング):文章や画像などの情報をコンピュータが理解できる数値へ変換する方法です。似た意味や特徴を持つもの同士が近くになるよう工夫されています。

多次元空間:複数の軸(次元)で構成された空間で、情報同士の関係性を距離として表現できます。人間にはイメージしづらいですが、AIはこの空間内でデータ同士の“近さ”を見ることで意味的な関連性を判断しています。

レコメンド機能:ネットショッピングなどで「この商品を買った人はこんな商品も見ています」と表示される機能です。商品の特徴から類似性を計算し、おすすめとして提示しています。