学習のポイント:

  • ハルシネーションとは、AIが実際には存在しない“もっともらしい間違い”の回答を生成する現象のことです。
  • 多くのAIは「言葉のつながり」から予測して文章を作るため、事実確認をせずに間違った情報を話すことがあります。
  • 正確な情報が求められる場面では、AIの答えをそのまま信じず、自分で調べることが大切です。
audio edition

ハルシネーションとは?AIが生み出す“うその答え”

「ハルシネーション(Hallucination)」という言葉は、もともと「幻覚」という意味を持つ英語です。目の前にはないものが見えたり聞こえたりするような現象を指しますが、AIの世界では少し違った意味で使われています。

ここでいうハルシネーションとは、AIが本当は存在しない情報を、まるで事実のように話してしまうことを指します。たとえば、実在しない人物について詳しく説明したり、出版されていない本のタイトルや著者名をそれらしく語ったりすることがあります。

大切なのは、AIがわざとウソをついているわけではないという点です。むしろAIは、自分が学んだたくさんの情報から「もっともそれらしい答え」を一生懸命作り出そうとしているだけなのです。その結果として、ときどき“それっぽいけれど間違っている”答えが生まれてしまう。それがハルシネーションなのです。

どうして起きる?ハルシネーションの仕組み

AIがハルシネーションを起こす理由には、その文章の作り方に秘密があります。多くの文章生成AIは、「次に来そうな言葉」を予測することで文章を作っています。これは、大量のテキストデータを学習して、「この言葉のあとには、こんな言葉が続くことが多い」というパターンを覚えているからです。

たとえば、「空は青い」とよく使われる表現があります。でも、「空は赤い夕焼けに染まっていた」という表現もありますよね。どちらも文としては自然ですが、それが今の空に合っているかどうかまでは、AIには判断できません。

さらに問題になるのは、学習したデータに含まれていない質問をされたときです。人間なら「知らない」と答えるところですが、AIは「何とか答えよう」として、それっぽい内容を即興で作ってしまいます。その結果、生まれてしまうのが“うその答え”、つまりハルシネーションなのです。

イメージとしては、小さな言葉のピースを組み合わせて絵を描こうとしているようなもの。でも、その絵が本当に正しい風景かどうかまでは確認せず、とにかく完成させてしまう。そのため、ときどき全然ちがう景色になってしまうこともあるわけです。

なぜ今、ハルシネーションが問題になっているのか?

この問題が注目されるようになった背景には、「大規模言語モデル(Large Language Model)」という新しい技術があります。これは、大量の文章データから学び、人間と会話しているような自然な文章を作れるAI技術です。有名な例としてはChatGPT(チャットジーピーティー)などがあります。

こうしたAIは、とてもスムーズに話すことができるため、多くの人々に驚きを与えました。しかし使っていくうちに、「あれ?これ、本当かな?」と思うような発言も見られるようになりました。自信たっぷりに語っていても、中身を見ると事実とは違っていたりする。それこそがハルシネーションによる影響なのです。

インターネット上にはたくさんの記事や投稿があります。その中には正しい情報だけでなく、間違った内容や古い情報も混ざっています。AIはそのすべてから学んでいるため、誤った知識まで吸収してしまうことがあります。そして、それらを元に答えを作ることで、“それっぽいうそ”が生まれてしまうわけです。

創造性?それとも危険?ハルシネーションとの向き合い方

一見すると困った現象にも思えるハルシネーションですが、その裏側にはAIならではのおもしろさもあります。まだ誰も考えていないアイデアや、新しい発想につながるヒントになることもあるからです。「正確さ」より「ひらめき」が求められる場面では、この特徴が役立つこともあります。

ただし注意しなければならないのは、学校や仕事などで正しい情報が必要なときです。もし間違った内容を信じて行動してしまえば、大きなトラブルにつながる可能性もあります。そのため、多くの場合「ファクトチェック(事実確認)」という作業が大切になります。つまり、AIから得た情報でも、自分で調べて確かめる姿勢が必要だということですね。

また、この現象によって、「本当に信じていい情報って何だろう?」という疑問を持つ人も増えてきました。それだけ私たちは今、“情報との付き合い方”について改めて考える時代に入っているとも言えるでしょう。

進化する対策:ハルシネーションへの挑戦

現在、多くの研究者や企業がこの課題への対策に取り組んでいます。一つ注目されている方法は、「外部データベースとの連携」です。たとえば、公的機関やニュースサイトなど信頼できる情報源とつながりながら回答することで、不正確な内容を減らそうという試みです。

また最近では、「知らないことには無理に答えず、『わからない』と言えるよう訓練する」方法にも注目されています。人間でも知らないことには素直に「わからない」と言いますよね。同じように、AIにも慎重さや謙虚さを持たせようとしているわけです。

さらに将来的には、「この回答はどれくらい信頼できるか」を示す機能も登場すると考えられています。「この答えは信頼度80%」などと表示されれば、それを見る人も判断しやすくなるでしょう。このような工夫によって、私たちはより安心してAIと付き合えるようになると期待されています。

まとめ:ハルシネーションとうまく付き合おう

今回は「ハルシネーション」という少し不思議な現象について紹介しました。簡単に言えば、AIが意図せず“それっぽいうそ”を作り出してしまうこと。それはAI自身の限界でもあり、人間との大きな違いでもあります。

この現象にはリスクもあります。でも同時に、新しいアイデアや発想につながる可能性も秘めています。ただ大切なのは、「そのまま信じ込まず、自分でも確かめる」という姿勢です。そしてこれから技術が進歩すれば、この問題もうまくコントロールできる日が来るでしょう。

私たち自身も少しずつ知識を深めながら、新しい技術とうまく向き合っていければいいですね。それこそが、安全で賢いつきあい方と言えるでしょう。

用語解説

ハルシネーション:AIが、実際には無い情報を、まるで本当のことのように作り出してしまう現象のことです。

大規模言語モデル:大量の文章を学習して、人間のような自然な文を作れるAIのしくみのことです。

ファクトチェック:出てきた情報が本当に正しいかどうか、自分で調べて確かめることです。