学習のポイント:

  • 正規化は、データの大きさや単位をそろえる処理で、機械学習において欠かせない準備作業です。
  • データの偏りをなくし、モデルが公平にパターンを見つけられるように整えます。
  • 正規化の方法によって結果が変わることもあるため、目的に合った手法を選ぶことが大切です。

AIの学習前に必要な「正規化」ってどんなもの?

AIや機械学習について調べていると、「正規化(Normalization)」という言葉を目にすることがあります。少し堅苦しく聞こえるかもしれませんが、実はこれはとても大切な“下ごしらえ”のようなものです。

たとえば料理でいうなら、材料を同じ大きさに切りそろえる作業に似ています。具材のサイズがバラバラだと、火の通り方や味の染み方にもムラが出てしまいますよね。それと同じように、AIが扱うデータも、あらかじめ整えておくことで初めてうまく活用できるようになるのです。

なぜ正規化が必要なの?その基本的な役割

正規化とは、一言でいえば「データのスケール(大きさ)や単位をそろえること」です。

たとえば、あるデータセットに「身長(cm)」と「体重(kg)」が含まれていたとします。この2つは単位も値の範囲も異なるため、そのままではコンピューターがどちらを重視すべきか判断しづらくなります。そこで正規化という処理を行い、それぞれの数値を同じくらいのスケールに変換します。よく使われる方法としては、「すべて0から1の間に収める」や「平均値を0、ばらつきを1にする」といった手法があります。

この処理には重要な意味があります。多くの機械学習モデルは数値同士の違いからパターンを見つけ出そうとします。そのため、一部だけ極端に大きな値があると、その影響ばかり受けてしまい、本来見つけたい関係性が埋もれてしまうことがあります。

たとえばクラス全員でリレーをするとき、一人だけ飛び抜けて足が速い人がいると、その人ばかり目立ってしまい、チーム全体としてどんな特徴があるか分かりづらくなるようなものです。正規化は、このような偏りをなくして、公平なスタートラインを整える役割を果たしています。

日常生活で考える「正規化」のイメージ

もう少し日常的なたとえで考えてみましょう。

たとえばあなたが洋服店で働いていて、お客さん一人ひとりに似合うコーディネートを提案するとします。でも、お客さんによって身長や体型がバラバラだったら、まずサイズ感をそろえてから服選びを始めたいですよね。それなしでは、「似合う・似合わない」の前に「着られる・着られない」の問題になってしまいます。

この“サイズ感”を整える作業こそが、AIにおける正規化なのです。どんなデータでもまず基準をそろえてあげることで、その後の分析や予測がスムーズになります。

ただし、この処理には注意も必要です。本来、大きさそのものに意味がある場合──たとえば年収や売上など──それまで一律に扱ってしまうことで、大事な情報まで薄れてしまうことがあります。また、「どんな方法で正規化するか」によって結果にも違いが出るため、一概に「これさえやればいい」というわけではありません。

このあたりは、「特徴量」や「損失関数」といった他の要素とも深く関係していて、それぞれの記事でまた詳しくご紹介していきますね。

地味だけど重要──AI精度につながる“下ごしらえ”

「正規化」という言葉は地味にも思えますが、その役割は非常に重要です。「AIってすごい!」と思わせる予測や分類結果には、こうした丁寧な準備作業が必ず支えになっています。

そしてこれは、人間社会でも同じこと。どんな仕事でも、成果につながる前には必ず“見えない準備”がありますよね。AIもまた、人間と同じように土台づくりから始まっているというわけです。

次回は、「データが足りない」ときどうする?という課題について考えてみます。「データ拡張」という工夫によって、限られた情報からより深く学ぶ方法をご紹介しますので、お楽しみに。

用語解説

正規化(Normalization): データの大きさや単位などをそろえる処理です。これによって異なる種類のデータでも比較しやすくなります。

機械学習: コンピューターが大量のデータから自動的にルールやパターンを学び、それにもとづいて予測などを行う技術です。

特徴量: データから抽出された、分析や予測につながる重要な情報要素です。機械学習では、この特徴量にもとづいてモデルが学習します。