【第29話】情報はAI、考えるのは人。共に進むために必要な「問いの力」

AIと考える力の関係

「AIって、なんでも答えてくれるんでしょ？」
そんなふうに思ったことはありませんか。スマートフォンに話しかければ調べものができて、メールの文章も自動で提案してくれる。たしかに便利ですし、日々の仕事や生活の中で助けられている場面も多いでしょう。でも、その一方でふと立ち止まって考えたくなる瞬間があります。「じゃあ、自分は何を考えているんだろう？」と。

情報を集めることと、それをどう受け取り、どう判断するかは、似ているようでまったく違う営みです。AIが進化するほどに、人間が持つ「考える力」の意味が、より鮮明になってきているのかもしれません。

AIの役割と人間の思考

AIという言葉は「Artificial Intelligence（人工知能）」の略で、人間の知的な働きを模倣する技術として知られています。最近では、質問に答えたり文章を書いたりする生成系AIが注目されていますが、その根本には「大量の情報を整理し、パターンを見つけ出す」力があります。

たとえば、「明日の天気は？」と聞けば、過去の気象データや最新の予測モデルから答えを導き出してくれます。これは人間が一から調べるよりもずっと速くて正確です。しかし、その情報をどう受け止めるか——たとえば「雨だから予定を変えるべきか」「傘だけで大丈夫か」といった判断は、人それぞれ異なりますし、そこには感情や経験も関わってきます。

つまり、AIは“情報を届ける”ところまでが得意分野。一方で、“その情報をどう活かすか”という部分には、人間ならではの視点や想像力が求められるのです。

AI利用時の注意点

AIは膨大なデータから最適と思われる答えを導き出しますが、それはあくまで「過去」に基づいたものです。新しい価値観や前例のない出来事には弱いという特徴があります。また、ときには誤った情報や偏った見方を含んだまま、それらしく整った答えを返してしまうこともあります。

たとえば、「この商品がおすすめ」とAIが言っていても、それが本当に自分に合っているとは限りません。なぜその選択肢なのか、本当に他に選びようはないのか——そうした問い直しこそ、人間にしかできない大切な作業です。

このような“盲点”に気づくためには、「リテラシー（読み解く力）」が欠かせません。単にツールとして使いこなすだけではなく、その仕組みや限界について理解し、自分自身で判断する力。それこそが、これからますます重要になっていくでしょう。

共存するAIと人間

AIによって仕事が奪われるという不安もよく耳にします。でも実際には、多くの場合「置き換え」ではなく「補い合い」が起きています。たとえば、資料作成や議事録まとめなど時間のかかる作業をAIが担うことで、人間はもっと創造的なアイデア出しや対話に集中できるようになります。

これはちょうど、電卓が登場したことで計算ミスは減りましたが、「数字の意味」を考える力そのものまで失われたわけではない……という話にも似ています。むしろ、道具として信頼できる存在が増えたことで、人間本来の思考力や判断力への期待値は高まっているとも言えるでしょう。

教育現場でもこうした流れは始まっています。単なる暗記ではなく、「情報をどう読み取り、自分なりに意味づけて発信するか」という学びへと重心が移りつつあります。これは社会人になってからも同じで、“正解”だけを求める姿勢から、“問い続ける姿勢”へと変わっていくことが求められている時代なのです。

問い続けることの重要性

私たちはこれから先も、日々さまざまな場面でAIと向き合うことになるでしょう。その中で問われ続けるのは、「この情報、本当に信じていい？」「この選択、自分らしい？」という、ごく素朴だけれど本質的な問いです。

便利さや速さだけでは測れない価値——それこそが人間らしい思考であり、“考える力”と言えるものなのだと思います。そしてそれは決してAIによって奪われたり薄れてしまうものではなく、むしろ共存することでより磨かれていく可能性があります。

今この時代だからこそ、自分自身の頭でゆっくりと考えてみたいですね。「AIとの付き合い方」だけでなく、「自分自身との向き合い方」についても。