学習のポイント:

  • 教師なし学習は、正解が与えられていないデータからAIが自分でパターンを見つけ出す方法です。
  • クラスタリングや次元削減といった技術を使って、データの特徴を整理し、分類します。
  • 大量のデータを効率よく処理できる一方で、結果の意味をどう解釈するかには注意が必要です。

「教えられなくても学べる」AIの新しい学び方とは

AIがどのように「学ぶ」のかを考えるとき、多くの人は「誰かが教えてあげる」というイメージを持つかもしれません。実際、多くのAIは、人間が用意した答えをもとに学んでいます。たとえば、「これは猫」「これは犬」とラベル(名前)を付けた画像をたくさん見せて、「猫らしさ」や「犬らしさ」を覚えさせる方法です。これは「教師あり学習」と呼ばれます。

でも、現実には「正解」がわからないデータもたくさんあります。そうした場合、AIはどうやって学べばいいのでしょうか。

答えがなくても気づける力――教師なし学習のしくみ

ここで登場するのが「教師なし学習(Unsupervised Learning)」という考え方です。その名の通り、「教師」つまり正解となる情報が与えられない状態で、AIが自分自身でデータの中にあるパターンやルールを見つけ出していく方法です。

人間にたとえるなら、誰にも教わらずに初めて訪れた街を歩き回りながら、「このエリアはカフェが多いな」「この通りは静かだな」と、自分なりに特徴や雰囲気を感じ取っていくようなものです。

教師なし学習では、データにラベル(答え)が付いていません。そのため、AIは似ているもの同士や違っているもの同士を比べながら、「これは同じグループになりそう」「これは別のグループだろう」と判断していきます。このような処理は「クラスタリング」と呼ばれます。

また、大量の情報から重要な部分だけを取り出して整理する「次元削減」という技術もよく使われます。これによって、複雑なデータでもシンプルに捉えることができるようになります。

つまり教師なし学習とは、「正解」がない世界で、AI自身が秩序や構造を見つけ出す力なのです。

身近な体験から見る教師なし学習の強みとむずかしさ

少し身近なたとえ話で考えてみましょう。あなたが初めて外国へ行ったとします。言葉も文化もわからない。でも街角で集まっている人たちを見るうちに、「あの人たちは観光客っぽい」「この人たちは地元の学生かな」となんとなく感じ取れることがありますよね。それは服装や行動などから自然とグループ分けしている感覚です。

AIも同じように、与えられた情報から“雰囲気”や“傾向”を読み取り、自分なりに意味づけしていきます。

この方法には大きなメリットがあります。まず、人間が一つひとつラベル付けしなくてもよいため、大量のデータでも素早く処理できます。また、人間では気づきにくい隠れたパターンや関係性を発見できる可能性もあります。

ただし課題もあります。「どんな基準で分類されたのか」がわかりづらかったり、本当に意味のあるグループになっているかどうか判断しづらかったりすることがあります。そのため、得られた結果については慎重に読み解く必要があります。

最近では、この教師なし学習の考え方がさらに進化し、大規模言語モデル(LLM)などにも応用されています。詳しくは別の記事でご紹介しますが、人間の言葉や感情と向き合うAIにも、この「自分で気づいて理解する力」が活躍しているんですね。

あいまいさから価値を見つける――これから広がる可能性

私たちの日常にも、「なんとなくそう感じる」「自然とわかった気がする」という瞬間があります。それは経験や観察から得た知識によるものですが、教師なし学習もまた、そのような“直感的な理解”に近い働きを目指しています。

世の中には、明確な答えだけでは説明できないことも多くあります。そんな複雑で曖昧な世界にも、AIは少しずつ足を踏み入れ始めています。そしてその中で、新しい発見や価値につながるヒントを見つけているのです。

次回は、「正解がある世界」でも「正解がない世界」とも異なる、もうひとつの学び方――「強化学習」についてご紹介します。試行錯誤しながら成長していくAI。その姿には、人間とも通じる面白さがあります。どうぞお楽しみに。

用語解説

教師なし学習:正解となる情報(ラベル)が与えられていない状態で、AI自身がデータからパターンやルールを見つけ出す方法です。

クラスタリング:似ている特徴を持ったデータ同士をグループ分けする手法です。分類するために使われます。

次元削減:膨大な情報から重要な要素だけを取り出して整理することで、データ全体をよりシンプルに扱いやすくする技術です。